1990年代

激動の1990年代モンゴル

――失政が招いた経済破たん

<書評> N・ジャンバルスレン、Ch・ヌーデル共著『モンゴルの歴史(90年代)』(1999年、ウランバートル、ウングト・ヘブレル)


 歴史学者でモンゴル国立大学教授のN・ジャンバルスレン氏が、弟子のCh・ヌーデル氏(モン・オルギル社長)とともに、90年代のモンゴル社会についてまとめた1冊を紹介する。116ページの短さだが、豊富な資料を駆使して、90年代の前進面と後退面を的確に示している。ただ99年4月に印刷された本なので、分析対象は98年までだ。

 章立ては次の通り。

1 モンゴル、改革の土台

2 政治的民主主義の確立

3 市場経済への移行:前進と後退

4 文化:前進と後退

5 新世紀に向けた外交政策

 最もページを割いているのが「3 市場経済への移行:前進と後退」。90年代、モンゴルの経済や国民の暮らしは急落した。

 数字で示されると改めて、生産の衰退、財政危機、貧困問題がいかに深刻なものか実感する。90年代における通信を除くあらゆる分野の産業の落ち込みは、過去70年間になかったほどのもの。90年には世界で中位だった生活水準が、わずか2~3年で下位に転落。96年の経済指標では、内戦続きのアフガニスタンと同レベルになった。

 著者らは経済破綻を、移行期の困難だとか、8年間では成果を出せないといった理由で説明しきれないとし、政府の、とりわけ民主連合政権の失政を厳しく批判している。

 国有財産の民営化、経済の自由化の過程で不正、汚職、賄賂がはびこった。なかでも銀行の乱脈融資には驚く。各銀行がコネや賄賂で融資した結果、94年で不良債権は70%にのぼった。

 著者らは、90年代を全面否定するのではない。複数政党制、自由、民主主義の確立、外交の広がり、伝統文化の見直しなど、多くの前進面を取り上げている。だが、経済悪化、失業の増大、貧困の深刻化、モラルの低下、犯罪の増加など、モンゴル社会が90年代に失ったものはあまりにも大きい。民主化運動が盛り上がった89~90年、誰がストリートチルドレンの出現を予想していただろうか。

 90年代の経済破綻は不正や賄賂がもたらしたものであり、主に指導者たちに責任があるとするが、この本では詳しい分析はない。2000年7月の総選挙で人民革命党が圧勝したことにより、失政への国民の審判は下された。しかし、90年代初めの民主化運動はなぜ、ひきつづき人権を守り不正を糾弾する国民的運動につながらなかったのか。市場経済へと移行するなかで、民主化運動の熱が急速に覚めていった印象を持つ。

 激動の90年代について、さらに掘り下げた研究を著者のジャンバルスレン氏らに期待したい。


<『モンゴル通信』№41(2001年5月、アルド書店)掲載>