1980年代 留学日記から

ウブルハンガイ県の国営農場(1986年6月)
ウブルハンガイ県の国営農場(1986年6月)

私のモンゴル15

食料事情⑦ 野菜の四季


 留学前、モンゴル帰りの先生や先輩から、向こうでは野菜不足になるから大変だよと脅かされたが、不足しているのは肉や乳製品の方で、野菜類は意外と豊富に出回っていることに驚いた。ジャガイモ、ニンジン、キャベツ、タマネギ、マンジンという蕪(オレンジ色ででんぶん質が多い)、きゅうり、トマトと確かに種類は少ないが、これだけあれば上等だ。

 いなかでは野菜を作っていながら食べる習慣がなく、大きな町でないと店頭に並ばない。一方、慢性的に肉・乳製品が不足している都会では、野菜は食生活の中でなくてはならないものとして定着している。野菜を通して、四季を追ってみよう。

 天候不順の意地悪な春(ハルタイ・ハバル)、仔家畜の出産期に当たり牧民にとっては試練の季節だ。そんな苦労を知らぬまでも、都会の人々にとっても春は意地悪。ほこりっぽくなるうえ、生鮮食料品の出回りが悪くなる。肉・乳製品はますます不足し、野菜も一つひとつ姿を消していく。ただし、ジャガイモだけは古くなってひからびても、しぶとく店頭に残り、姿を消すことがない。

 秋の収穫期までにんじんなどの野菜類とお目にかかれないのではと心配し始めると、まもなく4月末頃、青々としたネギ、キュウリが、やがてトマトが登場しほっとする。キュウリは特大、トマトは小ぶりでいずれも温室育ちで、9月頃まで出回る。他の野菜に較べてかなり高値だが、手軽に食べられるからいい。ニンジン、ジャガイモなどは土まみれになっているので料理に結構手間取る。

 6月から8月にかけてはうれしいことに、ウランバートルの街の一角では、野菜の自由市場が開く。中国人が中心になって開いておりニラ、セロリ、カリフラワー、サラダ菜、百日大根、カボチャ、ピーマンなどが並ぶ。買いに来る方も中国人が多いらしく、中国語が飛び交っていた。ちょっと割高だが、この際、野菜をたっぷり摂ろうとよく利用した。

 8月末頃からは、新野菜が出回り始める。8月から10月にかけては農作物の収穫期。半ば国民総動員でこの時期を乗り切る。学生たちの「秋の労働」をはじめ、都市部の各職場からも収穫の応援に行く。おかげで、キュウリやトマトがなくなり、野菜の自由市場が閉じる季節になっても安心できる。

 こんなふうに野菜の出回り具合によっても、四季の移り変わりを感じることができた。


(モンゴル研究会会報『ツェツェックノーリンドゴイラン』1989年5月号掲載)