1980年代 留学日記から

結婚披露宴にヘビーンボーブ(1985年5月)
結婚披露宴にヘビーンボーブ(1985年5月)

私のモンゴル14

食料事情⑥ 穀物の味


 モンゴルの主食は何かと聞かれると、ちょっと困る。いくら羊の肉をよく食べるといっても、日本人にとっての米と同格には扱えない。保存性が高く、エネルギー源としてもすぐれた穀物はモンゴル人にとっても、昔から食生活のなかで大きなウエイトを占めてきた。

 現在、都市部ではパンが主食だと言える。大小の円盤型、コッペパンなど何種類かのパンが豊富に出回っていて、不足することはない。日本のパンと違い、きめは粗いが、弾力性があって中身がいっぱい詰まっているという感じだ。私はこういうパンが好きで、ついつい食べ過ぎてしまう。新鮮なパンにツツギーやウルムといった乳製品を付けて食べたら最高。

 ボールツォグという揚げ菓子はおやつに最適だが、モンゴル人はよく朝食にしている。小麦粉とバターと砂糖を混ぜ合わせたものを油で揚げただけの素朴なお菓子だ。いなかでも都会でも家庭でよく手作りしていて、ときどきいただいただが、店で買ったものより味わい深い。

 ボーブというモンゴルクッキーもおやつによく食べる。楕円形でモンゴル模様の入った大型のヘビーンボーブは、結婚式などの祝い事に何枚も積み重ねて宴の席を飾る。

 ウランバートル第一病院近くにある小さなお菓子屋には、いろんな種類のクッキーやケーキが並ぶ。ここでは三日月形のモンゴルクッキーをよく買った。

 食堂(ゴアンズ)や街頭でも、ときどきグーヒーという大円形クッキーやケーキが売られる。食料品店に出ているシャグショールはモンゴル版ポッキー。日本のポッキーよりずっと長くて太い。

 パンにしろ、お菓子にしろ、膨らし粉などをあまり使っていないせいか、きめが粗いながら中身がいっぱい詰まっていて素材そのものの味を実感できる。小麦粉のこんな素朴な味は日本ではちょっと味わえない。ただし、こういうものばかり食べていると、確実に太る。

 都会ではなかなか食べられないが、モンゴルバター(シャルトス)、小麦などの穀類粉、砂糖などを練り合わせて、蒸して(?)固めたトスというお菓子がある。帰省先から戻ってきた友人がくれたが、ほのかに甘くて、モンゴルの「ようかん」「ういろう」と言ってもいい。

 ザンバーというチベット菓子も地方では今もよく食べる。大麦(アルバイ)の粉とバター、砂糖、湯を加えて練り上げて、円形や団子形にしただけのもの。「いなかではうんざりするほど食べていた。あまりにもルーティンな食べ物で、客人に出したりしないから知らないだろう」と言って、知人が目の前で作って食べさせてくれた。黒っぽくて見てくれは悪いけれど、私の口に合い、さっそく大麦粉を買ってきて自分でも作ってみた。これは都会でも隠れた人気があるらしく、ダイエットに余念のないある女の子はバター抜きで流動状にしたザンバーをスプーンですくって食べていた。

 粟(シャルボダー)とミルクに砂糖少々を加えて煮て冷ましたものも悪くない。いなかでは寝る前に作っておいて朝、食べるそうだ。米と間違えて粟を買ってしまったとき、知人にどうしたものかと聞くと教えてくれた。粟の粉とミルク茶、粟の粉とウルムといった組み合わせもおいしいそうだ。

 羊肉のスープにはゴイモンといううどんが合う。長・短・太・細といろんな形の乾麺が出回っている。ちょっとパサパサしているが、すぐ煮えるので便利だ。プントゥーズというマロニーみたいなものも売っている。

 米は北朝鮮からの輸入米だ。悪くないが、研ぐとき小石などを取り除かなければならない。モンゴル人も結構食べているが、米に対する感覚は日本人とはだいぶ違う。同室のジャルガルサイハンがある日の昼食に、パンとバターライスだけを食卓に並べたのには面食らってしまった。

 米料理としては、法要などのときに食べるベレーシーというチベット料理をごちそうになったことがある。ご飯と干しブドウを砂糖で味付けしてバターで炒めたもので、おそらく大抵の日本人はギョッとするだろう。モンゴル人が砂糖醤油で味付けした日本の肉料理を気持ち悪がるように。


(モンゴル研究会会報『ツェツェックノーリンドゴイラン』1989年4月号掲載)